宮沢和史が語る『SPIRITEK』 その2
レコーディング・エピソード
 アルバム『SPIRITEK』のレコーディングをいくつか紹介します。11月に行なった若きバンドネオン奏者であり、編曲者、小松亮太君とのレコーディング。前にもTHE BOOMの「空想の戦場」(1996年、アルバム『トロピカリズム』に収録)に参加してもらったのですが、2003年5月「極東ラジオ」にゲストで来てもらい、深く知り合うことができました。小松君とレコーディングしたのは「ピアノ」。小泉今日子さんに書いたこの曲を僕はもともとファドという音楽スタイルで作曲してポルトガルでレコーディングしたのですが、いつか自分で歌うときはタンゴで歌いたいなと思って、小松君に相談したのです。彼が素晴らしいアレンジをしてくれ、彼が連れてきてくれたオーケストラでレコーディングしました。これは目玉ですね。「タンゴっぽい」っていうんじゃないんです。タンゴです。歌も演奏ももろタンゴ。タンゴって日本人にとってちょっと遠い音楽じゃないですか。普段、聴かれないし。でもこの曲を聴いてくれれば、「タンゴってかっこいいな」と思ってくれるんじゃないかと想像しています。この曲を世の中に出すのが非常に楽しみです。とても気に入っております。
 「何もいらない」は、矢野顕子さんと宮沢で録っています。矢野さんがピアノで僕が歌。スタジオで「せーの」で録ってます。こういう形って今までありそうでなかったんです。ピアノの音色が僕を誘ってくれて、いい歌を歌わせてもらいましたし、矢野さんのピアノはやっぱりすごいなと、歌いながら感動しました。ピアノの弾き語りって安直に思われがちだけど、そうじゃないんです。ふたりの個性がうまく歩みよったときに、ぱっと花開くようなテイクが録れるし、そのあとはいくらやっても同じものは録れないんです。
 アルバム・タイトル曲の「SPIRITEK」はbirdとデュエットしています。元ZELDAのSAYOKOさんに書いた曲です。彼女が1995年にジャマイカでソロ・アルバムを作る、というときに頼まれて書きました。女性ひとりでジャマイカでアルバムを作っちゃうんですからすごいなぁと驚いた記憶があります。オリジナルはSAYOKOさんとジャマイカの男性シンガーがデュエットしている曲なんで、なかなか自分ではカバーしにくいなと思ってたんですが、最近birdの歌声や音楽家としての活動の仕方に興味があって、ぜひデュエットしたいと思ってお願いしたところ、快く引き受けてくれました。前に、僕がbirdのアルバムに朗読で参加したことがあるし、先日のオルケスタ・デ・ラ・ルスのコンサートでも共演しましたからね。とてもスイートで、かっこいい曲になりました。間違いなくこのアルバムの目玉だと思います。……話し出すと、「目玉」だらけなんで、このぐらいにしておきます(笑)。
SPIRITEK
01. Pulse

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